【山下美智代コラム】北韓人権国際映画祭10年「韓国は南北統一に王手をかけられるだろうか」: ASIA NEWS

【山下美智代コラム】北韓人権国際映画祭10年「韓国は南北統一に王手をかけられるだろうか」

2021年01月22日

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２０２０年１１月６日から８日まで「北韓人権国際映画祭」が開かれた。「北韓人権国際映画祭」は２０１１年から始まり、今回１０回目を迎えた。この映画祭は、北韓内部の実情や脱北者の実態、現状から南北韓統一というテーマで制作された北韓人権映画を紹介してきた。今回１０年目という節目でもあるということで、過去１０年を振り返り、北韓にどのような変化があり、脱北者問題を始め北韓人権問題はどこに向かっているのかを考える機会として、今まで上映された映画の中から１７作品が紹介された。

特に、コロナパンデミック生活の中であるということもあって今回はオンラインで上映された。劇場での上映では主催者や監督、俳優、脱北者の方と映画に関する話や実際について質問できるとトークタイムが持たれるが、今回それができないことが残念ではあるが、オンラインということで国内外のより多くの観客たちが観ることができ、北韓の人権について考えてもらえる良い機会になったのではないだろうか。

分断７０年、今や韓国に入国した脱北者は３万３５００人（２０１９年迄）と言われる。この脱北者たちを中心にした映画では、どのような苦労をし、どのようなルートを通って来たのかが描かれている。

《エントリー》

アニメーションではあるが、２０１３年作の「エントリー」は親子でフットボールの練習をしているように見せかけながら取り押さえから逃げ切る為の訓練をする。というように脱北を決行するまでに、決死の覚悟と準備をしているのが解る。

《メコン江にはワニがいる》

またドキュメンタリーの「メコン江にはワニがいる」では脱北した青年が子供の頃通ってきたルートを辿り苦労と恐怖を思い出している。

《４８メーター》

２０１９年作の「４８メーター」は、北朝鮮内での脱北を助けるブローカーの様子まで映画にされている。この映画タイトル「４８メーター」というのは、アムロッカン（鴨緑江）という中国と北朝鮮を国境とする川で、川幅の一番狭い所がわずか４８mしかない。この４８mを命がけで渡ろうとする。ところで、そこには国境警備隊員がいる。この川に入った者は子供でも容赦無く撃つ。非情なまでの軍人とそれに対する軍人の罪悪感が描かれている。今まで冷酷だと思っていた（私だけかも知れないが）人民軍の人情が描かれていることが、今までの映画とは変わってきているような気がする。

実際脱北者たちが経験してきたことは、これらの映画には表現しきれていない程の過酷な道のりであったのだろうと思う。そのような苦労を乗り越えほとんどの人がこの韓国に住んでいる。しかしその内のどれぐらいの人が幸せに暮らしているのかは分からない。命がけで逃げてきたのは、この韓国に希望があり夢を描いたからではないだろうか。いや、ただ北の現状がら逃れたいという思いがあったからかも知れないが。

しかし韓国での生活は自分たちが夢に描いてきたものではないという現実が突きつけられる。まずほとんどの脱北者が差別を受ける。脱北者は韓国に入国すると国家情報院や検察庁などの関係機関で合同尋問を受けた後、ハナ院というところで韓国社会に適応する為の教育を受ける。そこからが韓国での生活の本番だ。

《私たちの家族》

「私たちの家族」では、そこから出てきた親と離れて暮らす子供たちの様子がドキュメンタリーとして記録されている。

《私は韓国を愛しています》

「私は韓国を愛しています」では、自分の日常生活の様子をＶＴＲに録画し担当刑事に報告する。『自分は韓国を愛している」と言うのだけれど、本当にそうだろうかと思える。愛する努力をしているだけなのではないだろうかと。自由を求め韓国にきたけれど、この国では自由ではない。いつも自分の生活を監視され、猜疑心を持って見られているからだ。それで「ガラス張りの生活」そんな言葉が出てくる。

《北でも南でもなく》

「北でも南でもなく」ではこの韓国での苦悩がよく解る。自由を求め命がけで逃れてきたが、この韓国には自由と言うものがなく、さらに第三国に逃れていく。そこでは「脱北者」と言う烙印を押されることなく、一人の人間として生きていけるからだ。「北を解放する」そんな言葉を聞いたことがあるが、この南韓においてそれができるだろうか。南韓は彼らが求める自由の国ではない。この現実を私たちは直視しなければならないように思う。

《North Korea VJ 》

さらに今回の１０年を振り返ると言う意味を感じるのは北朝鮮の現状を捉えた作品の数々だ。「ノースコリアＶＪ」は北韓に住む住民が直接撮影したドキュメンタリーだ。２００４年から最近までの北韓の一般住民の生活の様子がそのまま記録され編集されている。２００４年頃は、まるで日本の昭和２０〜３０年代頃（実際私が経験したわけではないが）の様子を思わせる生活から、それでも少しずつは発展し身なりや生活用品に変化が見られる。何やらヤミ商売をし、生活を立てている様子がうかがえる。

《チャンマダン世代》

また、面白いのは「チャンマダン世代」だ。「人民共和国少年」と言う映画にもなっているように北韓には「コッチェビ」と言う子供達がいる。コッチェビというのは住む所もなく食べ物を探して渡り歩く子供達、いわゆるストリートチルドレンだ。その子供達は貧しさゆえに学校にも行けず、市場で食べ物をあさりながら生活する。だから学校での思想教育は受けずに、市場での経済学、生きる為の術を学ぶ。

《人民共和国少年》

その子供達が成長し、今チャンマダン世代と言われる市場を仕切る世代になっている。「苦難の行軍」のハングリー精神が彼らを強くし、育てたのだ。中国からの密輸品を売る。ノートパソコンも持っている。昔はＤＶＤ今はＵＳＢを通して情報を運んでくる。南韓での生活が北韓で教えられてきた事とは違うという事実を知る。そういった世代が今北韓で動き一般市民の経済を動かしている。

私たちが想像してきた（私だけかもしれないが）市場には、物がない時代から、今や他の国と変わらない程の物が並んでいる。勿論それはほんの一部にすぎないであろう。（まして今のコロナ事態では違っているだろうが。）食糧難や貧困がそれでうまる訳ではないだろう。しかし、今北韓でそういった力強い若者たちが動いているのは事実だ。共産主義国家の中で今自由経済が動き始めている。

ほか、離散家族問題、カムチャッカ半島への移住民、日本から北韓に移住した人々の問題などの映画が上映された。極東アジアにおいて共に考えていかなければならない問題が残っている。南北統一を前にして、私たちはもっと北韓の実状をしっかり知り、南韓に於ける脱北者たちの現実に目を向ける必要があるのではないだろうか。もし南北が統一されるならその時南韓は王手をかけられるだろうか！？今回の「北韓人権国際映画祭」。１０年を振り返り、また私たちに問題提起と今後の展望を考えさせてくれた。