【山下美智代コラム】差別からの解放「南北統一を叫ぶ前に心から同胞を愛する練習を」: ASIA NEWS

【山下美智代コラム】差別からの解放「南北統一を叫ぶ前に心から同胞を愛する練習を」

2020年12月28日

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今年５月、アメリカで白人警官が黒人の犯人逮捕時に長時間押さえ付け死に至らしめると言う事件が起こった。そういったことは今に始まったことではない。今までも警官の白人に対する扱いと黒人に対する扱いの違いから、警官によって黒人が射殺されたり激しい暴行を受け、死に至ったケースはあった。しかし、今回の事件は一般市民が携帯電話で撮影した動画が多くの市民の目にさらされたが故に、これに対する反応が大きく反感を買い、今まで人種差別に対して抑えられていた感情が爆発し、至るところでデモや暴動が起きた。アメリカのキリスト教精神の崩壊が露になった。

ところでそれは、遠い国の話ではない。韓国に於いても然りと言えるだろう。ちょっと話しはずれるかも知れないが、昔江戸時代の日本には「士（武士）・農（農民）・工（職人）・商（商人）」と言う身分制度があった。その下に穢多（えた）•非人と言うのが続く。実際には特権階級の武士、次に町人と言われる商人・職人、そして百姓と言われる農民・漁師・木こりの順の身分であった。さらに下の穢多・非人には全く自由がなく、人が嫌がる仕事をさせられていた。このように人口の多くを占める農民を上に置くことで優越感を持たせ、厳しい年貢、貧しい暮らしに不満、文句がでないようにしようという意図があったようだ。下には穢多・非人と呼ばれる人がいるじゃないかと。日本はこのようにして差別意識ができていった。

これが明治になり人間平等というスローガンの下、皆平民になった。穢多・非人も新平民と言われるようになった。日韓併合となり、多くの朝鮮人が今まで一番下で差別を受けてきた穢多・非人のような扱いを受けるようになった。彼らは「チョウセンジン」と呼ばれ、差別の対象となった。

韓国にも身分制度はあった。朝鮮時代、王族と貴族の下に「両班（文班・武班）・中人・常民・賎民」だ。両班だけが科挙によって高官になれ、地主になれる支配階級だ。中人は医学・天文学・外国語・法律など教育を受け科挙を受ける資格もあった。常民は庶民で農・工・商などに従事する人で学ぶことは禁止されていた。賎民は奴婢で多くの区分はあるが、売買や財産相続の対象でもあり人間扱いされなかった。皆両班になりたがり、朝鮮時代の末期には両班という位はお金で買えるようになりお金のある者は両班を名乗るようになった。それくらい両班に憧れた。

日本統治時代に入り身分制度はなくなった。臣民となり皆教育を受けられるようになった。そして一様に「チョウセンジン」となったのだ。どれ程悔しかっただろうか。誇りを持っていた朝鮮人にとって、どれほどの屈辱であっただろうかと思う。その屈辱を越え、日本統治から解放されたときには、「もう誰からも差別を受けることのない誇り高き韓国人だ」「もうあの屈辱は味わいたくない」と誰もが思っただろう。

しかし今、同民族同士がこの差別を行っている。解放後、日本本土からの帰国者は差別を受けた。今も同民族でありながら在日韓国人は差別を受けている。そして在中韓国人は「朝鮮族」と「ヨンビョンサラミ」と言われてもっと酷く差別を受け、この韓国ではまるで人間以下のような扱いを受けているように感じる。同族であるにも関わらず。では、脱北者に対してはどうだろう。ヨンビョンサラミからも差別を受け、韓国に逃れて来ても差別を受ける。過去に於いてあんなに差別され、悔しい思いをしてきたのに、同じ思いを同じ民族にさせる。

この差別意識はどこから来るのだろうか？なぜ人は他人を自分より低くみて、自分は優越感に浸ろうとするのだろうか。他人を自分より下におくことによって自分の価値を見いだし、自分としてのアイデンティティを保とうとすろのだとうか。また、自分達の民族の優等性を主張しようとするのだろうか。もし南北統一をなしたならば、その時にまた北の同胞を差別するのだろうか。お互いに北の出身だと、南の人間だと差別しないだろうか。

南北統一を願う前に、脱北者を差別し北の同胞を差別する思いを持っている自分自身を見つめ直さないといけないのではないだろうか。他人を蔑む思いは、人間の本心・良心ではないはずだ。南北統一を叫ぶ前に自分の心の中からその差別意識を追い出す為に、まずは同胞を愛する練習をしなければならないように思う。隣にいる「セトミン」、「朝鮮族」と呼ばれている人々を愛してしてこそ統一した時に「愛する同胞よ」と抱き合えるのではないだろうか。

私は韓国はキリスト教国家なのかと思った。ビックリするくらいの教会と聖堂の数だ。先日、キリストの聖誕節を迎えた。キリスト教信者は言う。「イエスを信じよ。イエスを信じれば天国に入れる」と。本当にそうだろうか。イエスを信じる前に、まず、自らの邪心（仏教でいう煩悩）から解放されなければならないように思う。「天国は近づいた。あなたの隣人を愛せよ。」そうしてこそ神の国（差別のない平和な国）を見ることができるように思う。

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