【脱原発でいいのか】もう一つの選択肢「トリウム原子炉」

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アイコンテクノ社・金子和夫代表取締役会長
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(Viewpoint 3/8) 電力を安定供給して産業を下支えするエネルギー政策こそは、国家の将来をも決定しかねない重要事項だ。東日本大震災後、原発は受難の時を迎えているが「脱原発」で、わが国の将来のエネルギーは持つのか、テクノロジストの金子和夫氏に聞いた。(聞き手=池永達夫)

安くて安全、核拡散防止へ
使用済み燃料処理も可能


東日本大震災から間もなく8年を迎える。とりわけ原発安全神話が崩れた福島第1原発事故は、世界を震撼(しんかん)させた。

福島第1原発事故で多くの人が苦悩のどん底に突き落とされた。特に原発事故がもたらした広域に及ぶ放射能汚染の拡散で、長年住み慣れた地を離れざるを得なかった人たちに思いを馳(は)せると、事故初動時の内閣や東京電力のずさんな対応に込み上げてくる怒りを禁じ得ない。

8年前の原発事故は、設計段階での自然災害に対する想定の甘さ、非常用電源の設置場所の不適切、緊急冷却装置の操作ミスといった人為ミスが積み重なって起きた「人災」だったことが明らかになっている。

不思議だったのは、事故が「人災」だったのに、誰に責任があったのかが、明確になされないまま「事故収束宣言」がなされたことだ。事をあいまいにして、誰も責任を取らないのが日本的習性とはいえ、あまりにも情けない話だ。

事故が起きて間もなく、菅直人首相は事故未検証のまま、一方的に「脱原発宣言」した。これには大きな疑問を抱いた。国民が不安に思っているさなかに、原発の是非を問えば、「無くしてしまえ」との意見が大勢を占めるに決まっている。

近年、何かと国民に対して頭ごなしに「二者択一」を迫る政治手法の台頭を危惧している。考え得る限りのケースを想定し、そこから取捨選択して「最善」を選ぶのであれば納得できるが、そのプロセスを省いて「賛成か、反対か」だけを問うやり方は拙速の過ちを犯しやすいリスクがあることから承服しかねる。

再生エネルギーは原発の代わりにはならないのか。

再生エネルギーはいずれも技術的に未完成で、天候に左右されるなど供給量が不安定でコストが高く、ベース電源とはなり得ない。

混乱の原因は、再生エネルギーの容量の96・1%が太陽光発電だったことだ。太陽光発電は昼間と夜間、晴天と雨天では供給量が100対0という極端な割合で、安定供給を課せられる電力会社にとって厄介な電源だ。そのため電力5社は、14年末に新たな再生可能エネルギーの受け入れ手続きを停止した。

太陽光発電については、ドイツが1991年から約20年間にわたって10兆円もの税金を使って推進してきた結果、総電力量に占める割合が3%にしかならず、撤退した経緯がある。

必要となる電力を恒常的に供給するには原発は不可欠ということなのか。

再生エネルギーの限界が明らかである以上、原発以外に依存できるものは今のところないが、新しい原子炉の必要条件は、以下の4点だ。

①安全性 ②使用済み核燃料の処理 ③原発の普及によって核武装する国が増える「核拡散」の防止 ④廉価性。

核反応を引き起こす物質にはウラン以外にもう一つ、トリウムがあるが、この必要条件をすべて満たしているのがトリウム溶融塩炉だ。トリウム溶融塩炉とは、今から半世紀ほど前に米国オークリッジ国立研究所で実験炉として4年間(1965~69年)、無事故で運転、安全が証明された原子炉だ。

軽水炉に代表される原発は、冷却のために大量の水を必要とするが、トリウム溶融塩炉はフッ化物燃料と、冷却にもフッ化物の溶融塩を使い水を使わない。これによりトリウム溶融塩炉は水素爆発の心配は無く、燃料も液体だから、いったん、何かあったとしてもドレインタンクに入り、そこがシールドする構造になっていて原発の安全を担保する上で大事な条件が満たされている。

トリウム溶融塩炉の利点を総括すると。

トリウム溶融塩炉は、燃料効率が高く、事故リスクが低い。そして、核廃棄物がウラン原子炉に比べ1000分の1以下になるメリットがある。

さらに、反応後にプルトニウムを生成しない。これは核兵器防止にもつながる。また通常の原子炉と同じ量の燃料から約90倍のエネルギーを取り出すことが可能だ。

それだけ聞くと夢の原子炉だが、米国はこの原子炉の実用化をストップさせた経緯がある。

その最大の理由は、トリウムはウランのように原子爆弾を製造するために必要なプルトニウムを生み出さないからだ。原爆を造る意思がなければ、原子炉の選択肢は広がるのだから、安全で熱効率のいいものに照準を合わすべきだ。

トリウム溶融塩炉を推進している国はあるのか?

トリウム資源を有するインドが、トリウム商用炉を稼働させている。インド同様、トリウム資源が豊かな中国も11年、トリウム溶融塩炉の開発着手を発表している。高レベル放射性廃棄物の消滅処理が可能で、資源量も拡大できると期待されている。

特に「脱原発」でも「原発依存」でも、使用済み核燃料の処理は早急に進めなければならない最重要課題だ。国内にはすでに1万7000トンもの使用済み核燃料が貯まっており、これをどのように処理するか喫緊の大問題である以上、その処理が可能となるトリウム溶融塩炉の可能性をしっかり検証することは必須事項だろう。

トリウム溶融塩炉は使用済み核燃料を処理できるのか。

使用済み核燃料はまず、乾式フッ化処理される。ウラン235、238を気体で96%回収し、4%がフッ化物として回収、これを溶融塩炉で処理できる。そこで残る高レベル放射性廃棄物は0・2%以下となり、これを高速中性子で処理する。

現在、トリウム溶融塩炉の実現に向けた動きはあるのか。

一昨年、カザフスタンに出掛けてトリウム溶融塩炉の下地となるプロジェクトに合意した。このカザフスタンのプロジェクトで、プルトニウムの処理を世界的にアピールできるだろう。こうしたプルトニウムの溶融塩処理から始め、最終目的は、トリウム溶融塩炉の完成を目指す。

かねこ・かずお 1935年、長野県松代町生まれ。中央大学工学部卒。同大学院修士課程終了。日本エンジニアリング株式会社を創業し、同社を半導体検査装置の分野でのリーディングカンパニーに育てる。アイコンテクノ社代表取締役会長。

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