
司会:この物語の背景、イスラエルの社会でこういうことが本当にあったのか?。
監督:イスラエルではこのような事例がたくさんあります。この作品は事実に基づいています。このように、家族や配偶者が自分たちの周りから消えてなくなったと思われていたけれども、実は生きていたという多くの事例があります。この物語は、このシナリオを最初に書いた脚本家の家族に起こった出来事を元に描かれています。
司会:戦争の後にはこれと似たようなことがあるということは、アジアの事例からも聞いています。
Q:こうした特筆的な心理描写を演じる上で、実際にその脚本家の家族の方から実際にアドバイスをもらったのでしょうか。それともご自身の想像で演技をされたのでしょうか。
クシュニール:私の答えは大きく2つのパートがあります。俳優としては、それぞれのシチュエーションを与えられたところで演じております。私はイスラエルで生まれ育った人間ですので、イスラエル人として私が思い起こすことがあります。
それは、私が子供の頃のことです。私が住んでいた家に一人の女の人が住んでいました。彼女は強制収容所から戻ってきた女性でしたが、彼女はいつも何かに怒っていました。私たちがボール遊びをしていても、家の中で飼っていた犬に対しても、いつも怒っていて、そして常に何かに怯えているようでした。私たちは、それがどうしてなのかわかりませんでした。ですから親に「なぜあの人はいつもあんなに怒っているのか」と尋ねると、両親は「シッ」と言って、「そのことについては触れてはいけない、しゃべってはいけない」と言いました。
私はこの役を演じるにあたり2つのことに重点をおきました。ひとつは妻に裏切られた夫、そしてもうひとつは、相手のことが全くわからない人、つまり相手が何を思っているのか、なぜこのように行動するのか、それが理解できない人間を演じました。この映画の中では、テキストが非常に少ない。この話は、みなさんが見ておわかりの通り、主人公の自分の物語、自分語りという形式になっています。例えば、途中でエミールという男性のところに小さい女の子の写真が壁に貼ってありました。
しかし、それについて何かを語るというシーンはありませんでした。これはもう彼の中で、そのことがわかっているから、それをさらに広げて話すというシーンはなかったわけです。ですから、ひとつひとつの事柄、すべてのことに対して、彼自身の目から見た世界が描かれています。そして、今回、ハイム・タバックマン監督と2人でこの役について話し合っていくうちに、彼は私にどのような気持ちで演じたらよいか、どのようなメンタルで演じたらよいか、そうしたことを常々ガイドしてくれました。ですから、今回の作品を通じて、カメラというものはそれぞれの資質、考え方を映し出すものだと思いました。
Q:作中でリンゴが何回か出てきて、とても印象的でした。実際に旦那さんと奥さんの出会いもリンゴが使われていたので、リンゴは何か特別な意味があるのかなと思ったのですが、エミールが旦那さんに「君はオレンジと草原の匂いがするから」と言っていて、あんなにリンゴが出てきたのに、なぜオレンジなのかと思いました。オレンジとリンゴのそれぞれに何か意味があるのかどうか教えてください。
監督:そこに注目していただいて、ありがとうございます。まずリンゴについてですが、実はこれは個人的な好みです。私の家族はいつもあのようにリンゴを分け合っていたものですから、おそらくそうしたところからリンゴを使うことになったのだと思います。紅茶のシーンがあって、紅茶を作るときに、紅茶の中にヨエルがリンゴをひとかけ落とします。実はこうやって紅茶を準備することができるのは、旦那だけであるという、個人間の特別な繋がりも示しています。
それぞれの関係性を示しており、随分とシナリオを考えました。これはひとつの芸術的な作業でした。その中で、私は友達との話を思い出しました。それは、その友達のお父さんはとても恥ずかしがり屋なドイツ人、お母さんはイエメン系のユダヤ人、ふたりともユダヤ人ですが、このふたりは映画の中のエミールとエヴァと同じような出会いをしたのです。ふたりとも言葉が通じない、けれどもリンゴを分け合って、そこからふたりが付き合い始めたという、そういう実際の話を聞いたことを思い出しました。
オレンジは、イスラエルのシンボルでもあります。イスラエルには果樹園がいっぱいあり、オレンジをたくさん作っています。柑橘類を作ることが非常に盛んです。ですから、オレンジから、主役の人がイスラエル生まれであること、イスラエルの土地、イスラエルの匂いというものを感じられるということになります。
司会:製作面でお聞きしたいことがあるのですが、この作品はいくつかの国の名前がクレジットされています。これは単に資金の問題でそうなったのか、あるいはどこかの国が中心になって、企画の段階から作っていったということなのか、またプロダクションの中心はやはりイスラエルだったのかという点を聞かせてください。
シルバー:この映画のクレジットにはフランス、ポーランド、ドイツという3カ国の名前が出てきますが、これはそれぞれの国の配給会社や制作会社が非常にこの映画を気に入ってくれたことが理由になっています。また映画だけではなく、監督や俳優たちを気に入ってくれて、自分たちの国でも配給をしたいと言ってくれて、最終的にはこの映画の制作のために資金の提供までしてくれました。そのため最後に3カ国の国名がクレジットされています。わかりやすい例としては、ここにいるドイツ人のアクセル・シュネッパトが、映画を撮影してくれたということです。彼はドイツのベルリンの制作会社からやって来ていました。そして彼の撮影は、拍手が送られるほど素晴らしいものであったと考えております。
監督:逆に皆さんにお聞きしたいのですが、例えばこの映画を観て、どんな小さなことでも、これが気に入らなかった、わからなかったとか、混乱したとか、文化の異なるみなさんから見たときに、そういったポイントがあったのであれば聞かせていただきたいと思います。何かありますでしょうか。
Q:これは観客が考えろということかもしれませんが、ラストシーンの意味を教えてほしいと思っています。3人で夕暮れ時に、遠くの方に馬みたいなのが見える家の前の風景を眺めるシーンで終わりますが、その狙いや意味がもう一つわからなかったです。ぜひお聞かせいただけないでしょうか。
クシュニール:あなたはそれをどのように思われましたか?きっと皆さんひとりひとりが違うことを考えられたかと思うのです。私の息子がそこに座っていますが、彼が初めてそのシーンを見たときに「あのぼーっとしたものが見えるのはお墓なのか?」と聞いてきました。ですから私は「わからないよ」とだけ答えました。つまりそれぞれに、それぞれの見方があると思うのです。またこれは役者としてでも、監督やプロデューサでもなく、私個人としての意見なのですけれども、私はあのシーンでエミールとヨエルがふたりでそのまま住み続けたのではないか、ヨエルがそれを受け入れたことを示しているのではないかと考えています。けれども、もしもう5分あったとしたら、奥からエヴァが出てきて、2人に紅茶を持ってくるかもしれませんね。
シルバー:今、クシュニールの息子さんが、ぼーっとしたものが見えたと言っていた話がありましたが、私は当初それに気づいていなかったので、その意見を聞いたときに非常にびっくりしました。でもプロデューサの私の中でも、エヴァは生きているのではないかと感じています。
監督:今の「ぼーっとしたもの」が技術的な問題でないことを祈ります(笑)。もうひとつ私が望んでいるのは、これを観た皆さんが、果たしてエヴァは生きているのか、死んでしまったのか、それともどのような結末を迎えたのかということを、明日の朝まで考えながら帰っていただければなと考えています。
司会:この映画、結構引きずるのですよね。2~3日ずっと考え続けるようなタイプの映画で、こういう感覚になるのは意外と珍しいのではないかと感じていますが、ぜひ皆さんもこの映画のことを頭の隅に置いて頂ければと思います。オープンエンドと言ってしまうと簡単ですが、やっぱりこれは見た人が各自いろいろ考える作品だと思います。本当にじっくり考えていると2~3日経ってしまうので、監督のおっしゃるように是非、一晩寝て明日の朝どう思うかを振り返って頂ければと思います。
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